完璧アイドルだったはずの「中島健人」は、なぜ30歳で「Sexy Zone」を辞めるのか?【梁木みのり】
■〝王子様〟山田涼介に憧れてジャニーズに入ってきたのが中島健人だった
先に挙げた“やんちゃ”系ジャニーズたちはみな、アイドルの仕事をこなしながらも、自分が男として憧れるカッコよさを追い求めていた。かつてはそれがアブない魅力に映ったのだが、時代が変わっていき、ファンの少女たちの欲望が主体となっていく。
嵐で一番の“やんちゃ”といえば実は櫻井翔で、カラコンとヘソピアスをいち早く身につけ、ジャニーズJr.内では短気と恐れられ、母校でもリーダー的な存在だったらしい。しかし所詮は慶応のおぼっちゃま、気質は優等生だ。他にもゲーマーの二宮和也や絵を描くのが趣味の大野智などを擁する、ヤンキーになれない嵐は、しだいに時代の流れとマッチして国民的アイドルに上り詰めていく。
しかし「アイドル=王子様」を確立したのは嵐ではない。同じく2007年、Hey!Say!JUMPがデビューした。その現センター・山田涼介こそが、アイドルの概念を変えた張本人だ。
驚くなかれ、Hey!Say!JUMPのデビュー当初のセンターは、山田ではなく中島裕翔だった。Jr.時代の中島裕翔は、亀梨和也・山下智久出演のドラマ『野ブタ。をプロデュース』に亀梨の弟役で出演するなど、かなり優遇されたジャニーのお気に入りだった。
一方の山田は中島裕翔ほどの寵愛を受けておらず、むしろなんと「YOUの笑顔、気持ち悪いよ」と言われたことまであるそう。そんな山田は、悔しさをバネに歌とダンスを猛特訓して頭角を現し、ついにデビュー、そしてセンターの座を奪うまでになった。
ちなみに山田にとってのアイドルの原型は、母と姉がファンだというKinKi Kidsの堂本光一だ。堂本はそのビジュアルでまさに「王子様」と称されるアイドル。だが本人が王子様キャラを徹底しているかと言うとそうでもなく、むしろファンを「おばさん」「化け猫」と呼ぶなど、かなりの自由人だ。
ありのままにしていたら勝手に「王子様」と呼ばれるようになった堂本とは違って、山田にはあらかじめ「王子様になるのが正解だ」という明確な目標があった。彼が当てはまりに行った正解こそ、母や姉をはじめとする女性たちが欲望する、脱臭されたフィクショナルな男性像だった。
こうして山田涼介を境にジャニーズたちは、自らの憧れを追い求める存在から、ファンの憧れを満たしに行く存在へと移り変わっていく。そして、この山田に憧れてジャニーズに入ってきたアイドルこそ、他でもない中島健人である。
山田にとっては王子様でいることが生存戦略であった一方で、中島にとってはそれ自体が自らの憧れだった。つまり中島は「他者の憧れを満たすことに自ら憧れる」という少々複雑な入れ子構造をとっており、このメタさが作用して、彼の王子様的振る舞いは山田と比べるとたいへん誇張されたものになっている。